2011年8月14日日曜日

『福島原発の真実』は、どんな真実か。 

前福県知事の佐藤栄佐久氏の『福島原発の真実』(平凡社)を読んだ。
原子力発電をめぐる国と佐藤栄佐久前知事の対立を、前知事の立場から書いている。

どうして最近、佐藤栄佐久前知事が原発を告発する言動を活発に行っているか、この本を読むと分る。主張も事実関係も整理され、県知事としてどのように対応していたかを、冷静に記述している。

電源三法による交付金は自治体の財政をいびつにし原発依存を強める。国の原子力行政の在り方は危険性を高める要因の一つだと指摘する。地方の自治体にとって、原子力発電所がどのような存在かが明解だ。

そして、原子力行政は民主主義が問われると、原子力発電所事故の本質も鋭く指摘している。

ただ、一人の県民としては少し違和感もある。
核燃料税や、プルサーマルの件だ。

98年にプルサーマル開始を福島県が了解したのは、97年のJヴレッジオープン後だったので、Jヴィレッジの施設の寄付と引き換えに、プルサーマルを容認したように見えた。

02年に核燃料税を引き上げをめぐる議論の最中に、東京電力の検査データ改ざんが発覚した。とこが、核燃料税引き上げが認可されて、しばらくすると原発が運転を再開した。再開を認める条件や理由がよく理解できなかった。そのため原発運転再開を核燃料税引き上げの圧力に利用しているように見えた。

これまで原子力発電をめぐる不祥事や事故、そして原子力行政の行き詰まりを、国や東京電力が『金』で解決してきた歴史をずっと目にして来た。

だから、福島県は旧態依然とした手法で、国や東京電力からお金を引き出す方策に走り、地域社会が原子力発電所へ依存を深める道を歩んでいるのではないか、本気で原子力発電所の安全を検討していないのではないかと、一連の対応を批判的に見ていた。

核燃料税引き上げは、福島空港、農道空港、あぶくま高速道などの大型公共事業で弱体化する県財政の資金策で、原子力発電の冥加金でバラマキ行政の帳尻を合わせようとしているのではないか、と考えていた。

日本では90年初めのバブル崩壊後、銀行に痛みが出ないように不良債権処理策を行って、金融改革を怠り、97年の金融恐慌を引き起こした。
欧米の銀行では支店数も行員数も給料も減少しているのに、日本では3つとも増やしていると、絶望的な日本の金融界のレポートが95年に出ていた。
分っていても対処しない不作為が行われていた。

次の90年代後半は景気対策で財政規律が弛緩し、財政悪化が起きるのが明白なのに政治家は鈍感だった。
97年金融恐慌直後の福島県議会議員選挙で、いわき選挙区の候補者全員が地方財政悪化に全く言及していないのが、印象的だった。1980年代の地方財政危機の熱さは、まだ喉元に残っているだろうに、この呑気で鈍感なのはどうしたことかと疑念が湧いた。
地方自治体は分っているのに真剣に対応しないで、地方交付税特会を既得権として財政破綻という不作為を行なうのだろうと考えた。

人生と名誉を懸けて国や東京電力と戦っている前知事には申し訳なかったが、特捜の逮捕の時に深く考える事もしなかった。前知事を支持しようという気になれなかった。

原子力発電所が深刻な事故を引き起こした今は、前知事が的を射抜いていたと理解できる。
違和感はあっても、原子力政策は民主主義が問われるという主張に同意するのに、福島県の政策からどうして汲み取れなかったのか、支持しようとしなかったのかを考えると、自分の不明も同時に感じる。

『福島原発の真実』は、一人の県民として苦く重い。

佐藤栄佐久前知事は、収賄容疑で5年前に逮捕され辞職した。裁判は1審有罪、高裁2審判決では収賄額がゼロ円だが、有罪となった。現在は最高裁で争われている。『福島原発の真実』平凡社

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