東京電力原子力発電所のレベル7の事故に対する、政府と東京電力の原子力広報を検証すると、事故発生の初期に情報を適切に伝えず、住民を軽く見ていたとしか思えない態度だったことが分ります。
3月12日午後3時26分に、東京電力福島第一原子力発電所で、水素爆発が起きました。
しかし、政府と東京電力は、原子炉建屋で何が起きたのかを、事故発生当初は、迅速に正確に伝えませんでした。
内閣府のネットサイトで記者発表を見直してみました。
3月12日午後の枝野官房長官の会見です。
水素爆発から数時間たっているのに、まだ、何が起きているのか正確に伝えられないと繰り返しています。政府が迅速に状況を把握し評価できない、また、事態を適切に伝えられない情けない姿です。
これは、好意的に慎重であると解釈もできます。
しかし、住民の理解力を侮っている態度と解釈されても仕方ないものです。
東京電力第一原子力発電所の12日午後11時の発表より。
「1号機(停止中)
・原子炉は停止しておりますが、本日午後3時36分頃、直下型の大きな揺れが発生し、1号機付近で大きな音があり白煙が発生したことから、現在、調査中です。」
7時間も前に水素爆発を起こしていながら、どこで何が起こっているのか、住民に正確に迅速に伝えようとしない東京電力の姿がここにあります。
ところがその翌日の13日、1号機建屋の上部が吹き飛び、鉄骨だけになっている映像をテレビのニュースで見て、『白煙、揺れ、大きな音』が爆発であった事を住民は知ります。
政府と東京電力の情報を迅速に出さない態度は、裏目に出ました。
爆発なのに『白煙、揺れ、大きな音』と表現し、事態を小さく見せかけようとしてるのだと住民に分って、信用を失ってしまいました。
さらに、13日の夕方には枝野官房長官が放射線について話す内容がNHKニュースで報道され、長官が放射線に『無知』だと思われるような発言が紹介されます。
3月13日夕方のNHKニュースより
『枝野官房長官は、3号機周辺の放射性物質のモニタリング数値について「モニタリングでは、13日午前10時以降、50マイクロシーベルト前後の数値で安定していたが、午後1時44分ごろから上昇し、1時52分には1557.5マイクロシーベルトを観測した。ただ、その後、午後2時42分のデータでは、184.1マイクロシーベルトに低下している」と述べました。
そして、放射線の数値が一時的に上がった原因については「炉心が水没していない状況になると、放射線の発生がその時間は多くなるので、一時的に数値が上がる」と述べました。』
炉心の核反応による放射線が、原子力発電所周辺の環境放射線量に直ちに影響し、一時的に数値が上がる事はありません。
原子炉とその中の水、格納容器、分厚いコンクリート壁が、放射線を外に出さない構造になっているのです。原子力発電所を見学したことのある工業高校生でも、その時に渡される資料レベルの説明で、この程度のことは分ります。
発電所敷地内の放射線量の数値上昇は、原子炉建屋から放射能が放出され、放射能汚染が発電所境界を越えて広がっていくことを示すものです。
枝野官房長官の記者会見のニュースは、政府広報を担当している政府高官が原子力発電所の事故を、迅速に正確に把握し伝える能力を持っていないことを映し出しました。
重大な決断や、状況把握が出来ていないのではないかとの疑念も湧きます。
いろいろと言い訳はあるでしょう。
しかし広報では簡潔に正確に
- 原子炉内の冷却を制御できていない深刻な事故であること、
- 放射能汚染が原子力発電所の外に広がること、
- 風向や降雨に注意を呼びかけることなど、住民に危険や健康被害から自分や家族を守る適切な防護方法を伝えながら、
- 冷静な対応を呼びかけるべきでした。
政府は、4の冷静な対応を呼びかけましたが、1〜3を迅速に分りやすい情報として伝えることはしませんでした。
これらの結果、事故の初期段階で信用を失った政府と東京電力の広報は、この後の社会混乱の原因となり、大きな損害を社会に与えました。
3月12日以前は事態を小さく見せて時間稼ぎをし、住民が忘れるのを待つような手法が原子力発電の広報で通用したのでしょうが、今回の事故はそれで済まされないと、政府と東京電力には肝に銘じてもらいたいと思います。
(馬上雅裕)