2012年7月20日金曜日

電力会社の原子力事業関係者の、原発事故に対する考えの軽さに驚きました。


政府がエネルギー政策で国民の意見を聴く名古屋の意見聴取会のニュースで、原子力事業関係者が「今回の事故で放射能で死んだ人は、疫学的にはいないし、将来的にもいないはず」との発言をしていました。


原子力事業関係者の原発事故に対する考えの軽さ、程度の低さ浅さに驚きました。


疫学的な判断は1年や2年ではできない話で、結論を得るには数十年から十数年を要します。疫学的結論が出るのは、被害が確定した後です。
だから、百数十万人にのぼる福島原発事故による被爆者に、いま疫学的な話を適用するのは不適切です。

また将来も、放射能被爆での死者はないと無条件で言い切るのは、楽観的すぎます。

今回の事故で、東電の原発が発電所外に放出した放射能汚染の核種の質量は、放射性セシウムが4332g、放射性ヨウ素131は32.7gです。『放射能除染の原理とマニュアル』(藤原書店 p22-p25)
これだけ大騒ぎになっているに、原発外に放出された核種はわずか4.2kgほどの重さしかありません。

一方、東電福島第一原発の壊れた原子炉の中には数トンの核燃料などの放射性物質が存在しています。
これから数十年かけて、安全な場所に移し安定的な管理が可能な状態にしなければならないのですが、現在、壊れた炉での作業は始まっていません。

高線量被爆リスクが高い大変な作業はこれから始まり、長期間行われます。

それなのに、「将来的にも放射能による死者はいない」と断言するのは、あまりに楽観的で近視眼的です。日本の原子力事業関係者が、いまだに、このような緊張感の無い発言しているのは、反省が足りないのではないかと危惧してしまいます。


また原発事故では、放射能だけが命を奪うのではありません。

原発事故に直接対応した電力会社と政府が慌てうろたえて、住民の避難をきちんとできなかったため、多くの人が、原発事故にともなう混乱のなかで死亡しています。
原発事故は病弱者や高齢者の健康を奪い、汚染地域の農業者の希望を奪って死に追いやりました。


原発事故の被害は広範囲です。

原子力事業関係者の発言は『原発事故は被爆死亡者が出なければ許される』という、とんでもない主張にも聞こえ違和感を抱きました。

最近、横浜に行ったいわき市の人が、「レストランに入ったらメニューに『当店では福島県の食材は一切使用していません』と書いてあって、とてもショックでした」と話していました。

福島県産の食材はサンプリング調査で安全基準を満たしている場合だけ、出荷しています。また、横浜で「放射能による死者は出ていないはず」です。
でも、東電原発事故の内外被爆による健康被害の疫学的結論はまだまだ出ないので、福島県の食材生産者は、根拠の無い中傷で営業妨害だと、横浜のレストランに抗議できません。
この小さな悔しい現実も、原発事故が引き起こしている数えきれないほどたくさんある被害のなかの一つです。

彼のような軽い考えの原子力事業関係者は(全てではないのでしょうが)、被害地域の住民や原発事故現場の危険な最前線で働く人の姿は見えない意識構造をしているのだと、あらてめて思い知らされました。
東電がレベル7の事故を起こしたのに、いまだに、こんな発言をする幹部がいる原子力業界は、かなり危うい存在です。

原発20%-25%を支持する原子力事業関係者の、意見の程度が低く浅く軽いのが良くわかる発言でした。